1. 学術リポジトリホーム
  2. 貴重書コレクション
  3. ケーリ文庫(Illustrations of Japan… 『日本風俗図誌』)

ケーリ文庫

Illustrations of Japan… 『日本風俗図誌』

ティチング(Titsingh, Isaac 1744-1812)はケンペル、ツンベルグ、シーボルト等と並び、江戸時代の鎖国政策下に長崎に在留した著名な日本研究家の一人です。彼はオランダのアムステルダムの外科医を多く輩出した家系に生まれ、早くから医学を学びますが、1766年一転してオランダ東インド会社に入社してしまいます。その後、1779年8月15日に長崎出島商館長として初来日し、翌1780年、商館長在職中の最大任務である江戸参府の途に就き、同年4月5日、将軍家治に謁見しています。

ティチングは3回の来日で、延べ3年8ヶ月の短い期間日本に滞在しただけですが、その間に当時悪化していた日蘭貿易の再興に貢献し、また一方では多くの日本人との交際を深め、日本人の生活慣習に関する研究資料を多数収集しました。この交際は、彼が日本を去りベンガル、バタビアに在ったときまで、朽木昌綱、中山淳庵等と書翰により継続されていたようです。

33年間の東洋在勤を終えたティチングは、オランダへ帰国後パリへ移住します。そして資料の翻訳、原稿の執筆に専念しますが、1812年2月9日病歿してしまいます。残念なことは、彼の日本に関する研究が漢字印刷の問題や社会的混乱などにより、生前に殆ど何も出版の運びにいたらなかったことです。

本書の内容は2部に分かれ、第1部は1820年パリ刊行の『Memoires et anecdotes sur la dynastie regnante des djogouns』(邦訳:歴代将軍譜)を、第2部は1819年パリ刊行の『Ceremonies usitees au Japon pour les mariages et les funerailles』(邦訳:日本における婚礼と葬式)を英訳したもの(訳者:Shoberl, Frederic)です。

第1部は徳川将軍家歴代の事蹟を主体とし、幕府の年中行事、法廷自殺法(切腹)、作詩法、度量衡、暦法等に関する記事を収めています。第2部は内容が更に2部に分かれ、まず婚礼の部分は、本文中にも記されていますが『嫁取重宝記』と『当世民用婚礼仕用罌粟袋』を典拠としています。特に後者については、場所によっては説明を付加したり、煩瑣な点を省略したりしているものの、農民・職人・商人の婚礼が大体忠実に翻訳されています。一方、葬式の部分は婚礼の部分とは異なり、単なる翻訳ではなく、ティチング自身が長崎で観察し見聞した知識が含まれています。中でも、日本人が死体の硬直を防ぐために用いた「土砂」に関する記述は興味深いもので、科学的分析を試みるティチングの近代人らしい面影が浮かんできます。

上述のように、本書では日本の歴史に関する挿話的記事、或いは風俗慣習や民俗に関する記事が豊富で、しかも詳細に記載されています。また、自己の見聞や観察のほかに自分が入手した日本の文献をそのまま翻訳し、更に挿絵を忠実に模写・復刻して収録していることも、同類の日本研究書とは異なる注目すべき大きな特色です。

本図書館では、ここに紹介した英訳本のほかに、『新異国叢書』(雄松堂書店刊、請求記号210.5;S4)所収の邦訳書「日本風俗図誌」(訳者:沼田次郎 1970年刊)を所蔵しています。

参考文献:上記邦訳書解説、世界名著大事典 5(平凡社刊)ほか  

「びぶりおてか」同志社大学図書館報38号(1985.10.15)より抜粋